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2011年3月16日 (水)

クレンペラーのベートーヴェン

 東北関東大震災から5日目。首都圏はガソリン不足が更に深刻。1台¥1,000までとか、10リットルまでとか、そういう制限もあると聞いています。こんなときに燃費のよく無い車は致命的。

 実は震災直後に届いたCDがありました。ネットショップのHMVで購入したもので、物流が寸断された中、どうやらギリギリ震災前に、集配局には届いていたようでした。

 自分が音楽家でありながら敢えて言いますが、こんなときは正直言って、音楽どころじゃありません。音楽を聞いたって腹は膨れんし、車が走るワケじゃない、部屋が暖かくなるワケじゃない...。気持ちが?心が?はぁ、そりゃね、物欲が最低限満たされているときですよ。今回の震災でよくよく身にしみました、自分の無力さを。

 と言いながら、トーゼン仕事はしているんですがね。昔は紙とペンがあれば作曲が出来るって言われていましたが(無くても出来る...)、今や電気も復旧したので、仕事環境自体は全く問題無し。地震でも締め切りはそのままだし、頑張らなくては...。

 話を戻しましょう。HMVで期間限定で、CDを¥10,000以上買うとポイント15倍などと言う文句に釣られ、じゃこの際ってな感じで、友人の評論家先生にBeethovenの全集でオススメは?と聞き、Klemperer=Philharmonia盤を購入。

Klempbeethoven こんなときに届くなんぞ、

何か運命かな。

早速聞き始めると、

センセの言った通り凄い!

 Beethovenは昔から普通に接していましたが、最近交響曲も全曲コンプリートした事で急に愛おしくなり、今回の全集大人買いになったのですが、こんなときに聞くからなのか、重厚で緻密な音作りには感服しました。そんなにたくさんのアーティストのBeethovenは聞いていませんが、間違いなくこれは名盤と呼ぶにふさわしいものでしょう。

 下手すればテキトーに買って「ふ~ん」で聞き流していたモノ。やはり耳の超えたエキスパートには聞いてみるものです。そしてセンセはもう1つ推薦していました。そっちは貯まったポイントで購入かな。

 音楽を聞いてどう受け取るかは人それぞれですが、今回のKlempererのBeethoven。癒し系ではありませんし、聞いて勇気づけられるとか、そんな単純なものでもありませぬ。Beethovenの書いた音符1つ1つから、Klempererはパワーを引き出していて、それがヒシヒシと、ジワジワと伝わってきます。何だか「オメェしっかりしろ!ちゃんとやるってのはこうだ!!」と戒められている感じかなぁ。

 こんなときで無かったら、また違った気持ちで聞いたのかもね。

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コメント

啼鵬さんには啼鵬さんの、役割と必要とされるタイミングが必ずあります。
今は他の人の番なだけです。無力なんかじゃないですよ!

CDやDVDは軒並み発売延期です。モノはあっても配送できない…
最近は余震のなか、日々その対応に終われてます。

私もやっと音楽を聴く楽しみが戻ってきました。
福島の親戚の無事が月曜日夜にわかり、やっとそういう気持ちになれました。

被災されている方の為にも、早く日常を取り戻しましょう!

札幌のライブは予定通りやりますか?

> yumikoさん
 テレビで某お笑い芸人の方が、「今はお笑いは違うと思う」とおっしゃっていました。その方は募金を募る事にしたみたいです。
 さし当たってワタシは労働力かな。

> 北海道在住希望さん
 こういう事態ですからね。HMVから届いたのも奇跡に近い。
 札幌公演に関しては現状のままです。

音楽でお腹がふくれないという件については、私にも経験があり、それなりに考えるところもあるのですが、とりあえず「音楽の欲求はわりと高次の欲求で、それ以前に生存や安全の欲求がある程度満たされないといけないらしい」ということと、「音楽の役割は空腹を満たしたり車を走らせたりとは別にある(はずだ)」ということは申し上げておきたいと思います。私も地震以後水道が復旧してようやく音楽を聞く気持ちになりました。

クレンペラー=フィルハーモニアのベートーヴェンはLP時代から愛聴してます。この人の演奏はとにかくタテ方向のベクトルが強く、旋律は対位法の素材のひとつに過ぎず、表情は即物的で愛嬌がなく厳しく静的で、とりわけ対位法的な要素は全てがはっきりとむき出しになっていなければならない、といった感じ。若い頃は現代音楽というか、彼の同時代の20世紀音楽を積極的に手がけ、テンポも速かったのですが、1950年台の後半から60年代の演奏は古典派からロマン派がレパートリーの中心となり、遅いインテンポでがっちりと巨大なスケールを感じさせる芸風になりました。英語のライナーで彼の晩年のスタイルを granite-like「花崗岩のような」と評しているのがあって、うまいこと言うな、と思いました。細かい細工もできて彫刻や建築に使われる華やかな大理石ではなく、ガラガラと大きくて重くてキメが荒くてそのくせ中までぎっちり詰まった花崗岩。
このベートーヴェン全集の中では第7番が完全に晩年のスタイルで、第9あたりは逆に若い頃のスタイルに近いような気がします。圧巻はその晩年スタイルの第7番ですね。特に第四楽章を初めて聞いたときは体じゅう汗が吹き出して(たぶん夏だったんだ)、聞き終えたらほっと救われた気がしました。それに次いでは第8番もいい。この一見地味でさほど長くない曲の中に実はいろいろなことが書き込まれていて密度が高く、知的な興奮にあふれた傑作であることがよくわかります。曲がこの人のスタイルに合っているのでしょうね。

クレンペラーのベートーヴェンではニュー・フィルハーモニア管他との「ミサ・ソレムニス」もすばらしいです。「ミサ・ソレムニス」の名盤でもあり、クレンペラーの演奏の中でも晩年スタイルの名演です。ソリスト、特にソプラノのゼーダーシュトレームもすてきです。機会があったらぜひお聞きください。
ベートーヴェン以外ではブルックナー8番、ベルリオーズ「幻想交響曲」、ドヴォルザーク「新世界」、リヒャルト「ドン・ファン」、自作の交響曲・・・いつでも洗脳して差し上げますので、お声をかけてくださいませね~(^^)。

> ほーほさん
 詳細な解説有り難うございます。自分もそのセンセに「全部のパートがちゃんと聞こえるのはこの盤だけだ」と言われました。1音たりとも音を無駄にしたくない作曲家としては、そういうスタンスでの演奏は大歓迎です。とは言え、其れが全てでもないのですが。
 まだ1~3、6しか聞いていないのですが、順に聞いていく度に、かなりヤラれています。またどうやら話題性も多かった指揮者のようで(笑)。
 実は震災後、まだ楽器を弾いていません。と言うよりも、弾く気になれないんですわ。直後の演奏会も延期になりましたし。まだまだ余震もありますが、まぁボチボチとね。

そのセンセってすごい人なんですね(笑)

> 赤佐多なら驚愕さん
 センセの言う事はとても的確。勉強になりますよ。

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